学内システムの運用管理事例

Case Study for Campus System Management

岩崎 一彦

Kazuhiko Iwasaki

東京都立大学 教育研究用システム運営室長

(大学院工学研究科電気工学専攻)

Tokyo Metropolitan University, Committee for Campus System Management

(Graduate School of Engineering, Faculty of Electrical Engineering)


第7回Index

あらまし 東京都立大学のコンピュータおよびネットワークシステムの概要とその運用管理について報告する.

1.大学の概要

 本学は,昭和24年の学制改革に伴い,旧制都立高等学校をはじめとする6校を母体として発足した.平成3年には目黒区内のキャンパスから現在地に移転した.現況を表1に示す.現在の学生数は約6500名,教職員数は約850名である.総長のもと,5学部,5研究科および事務部門等が一体となって,日々の教育研究活動に携わっている.平成17年度には,都立4大学(都立大学,都立科学技術大学,都立保健科学大学,都立短期大学)の再編統合が計画されている.

表1 東京都立大学の現況

学生数

約6,500名

うち学部生5,000名,

大学院生1,400名,研究生等100名

教員数

約650名

職員数

約200名

部局

事務局,学生部,教養部,人文学部,法学部,経済学部,理学部,工学部,都市科学研究所,付属図書館

所在地

東京都八王子市南大沢

(京王相模原線南大沢駅下車)

2.キャンパスシステムの概要

 本学のコンピュータおよびネットワークシステムの概要を図1に示す.主な構成要素は,

・計算サーバ(IBM社製Regatta:32CPUおよび

COMPAQ社製スーパサーバ)

・ネットワーク系サーバ

(Web, Mail, DNS, NEWS, APOP)

・ネットワーク接続管理装置

      (ファイアウォール等)

・教室および自習室

・貸出端末(300台)

・無線LAN装置

である.これらがGigabitスイッチで接続されている.対外接続は株式会社パワードコム提供の帯域保証型6Mb/sである.各部局へはATMスイッチまたはFDDI(図示されていない)を通して接続されている.平成14年度中にはGigabitスイッチを用いた接続に移行し,全学をVLAN化する計画である.

本学のシステムは平成14年1月に更新され,現在は順調に運用されている.図2にシステム更新の経過を示す.当初5年リースの予定であったが,東京都の財政逼迫の影響を受け,導入が1年繰越しとなった.紆余曲折があったものの,限られた予算と資源の中で,事務部門を含めた全学の英知と協力のもと,本学の教育研究活動にふさわしいシステムが導入できたと考えている.

H08.1 システム導入

H10.7 システム更新公聴会

H11.3 次期想定システム中間答申

H11.7 予算要求

H12.2 次期システム等検討特別委員会報告

H12.4 提案書作成要領

H12.7 予算要求

H12.9 仕様策定委員会

H13.1 予算内示

H13.6 入札

H14.1 システム更新

図2.システム更新の経過

3.学内システムの管理運営体制

 かつて学内のコンピュータシステムに求められていたことは計算能力であり,理工系の利用者が大半を占めていた.現在では,衆知のとおり,ネットワークの教育あるいは利用に対する要望が主たるものとなっている.特に,文系の利用者にとっても,大学システムは不可欠のものとなっている.理工系の利用者よりもネットワークに詳しい文系利用者も珍しいことではない.

 このような利用状況の変化に伴い,学内のシステム管理運営体制についても見直しがおこなわれてきた.本学システムの管理運営にかかわる組織等を表2に示す.システム管理委員会は総長および部局長から構成され,随時開催される.この委員会は全学の諸調整をおこない,場合によっては学生を処分することもある.

 情報処理システム運営室(以下運営室)は部局から選出された委員から構成されており,日常の管理運用にかかわる様々な案件について責任を持っている.例えば,学生の不正利用に対し注意したりアカウントを停止したりする.運営室会議は毎月開催され,運用委託会社からの月次運用報告を受けている.さらに運営室委員が交代で,運用委託会社からの週次運用報告を毎週受けている.ウィルス感染等の緊急時には,会議を経ることなく,接続切断等の措置をとることとなっている.

 事務組織として,電算係,事務情報係,図書館が日々の事務および様々な管理業務を担当している.

サーバやルータの設定管理といった実作業は,運営室の責任のもと,電算係が指示をして,委託SEの方が担当している.授業補助ならびに自習室監督を目的として,学生アシスタントを雇用している.

表2 学内システムの管理運営に係る

学内組織

組織名

構成員

分掌

システム管理委員会

(随時開催)

総,事長,事次,人,法,経,理,工,都,教,学,図

システムの一元管理

(教育研究,事務,図書館,更新)

情報処理システム運営室

(毎月開催)

教1,人1,法1,経1,理2,工2,都1

教育研究用システムの日常運営,

委託管理等

教養部教務課電算係

行政職員4

同上事務管理

事務情報係

行政職員3

教務(履修,成績)

図書館

行政職員

図書館システム

委託SE

計7名

サーバ類の管理運営,ユーザ登録

学生TA

学生17名

3教室(330, 340, 350),77コマ

 学内には,教育研究用システムとして複数のシステム(教室)が存在している.契約の形態・期間がそれぞれ異なっている.表3にリース期間を示す.ハードウェアおよび付随するソフトウェアに関する部分のリース期間はそれぞれ異なっている.しかしながら,本学の特徴として,保守管理は全学のシステムを対象とした1年契約となっている.

表3 教育研究用システム関連契約の形態

教育研究用システム

3年リース

WS教室

4年リース

PC(340,350)教室

4年リース

ネットワーク

設備+5年リース混在

運用管理

1年更新

4.システムの導入と運営の実務体制

 納入会社では,平成14年1月の稼動に向け,表4に示すように,6チームからなる導入プロジェクトを組んだ.表4の()内の数字がチームの人数を示し総勢23名であった.導入当初には若干のトラブルが生じたものの,総じてスムーズな移行が達成された.これは,運営室委員の協力もさることながら,電算係職員の献身および納入会社の努力の賜物であり,意識と技術力の高さを示すものと考えている.

表4 システム導入に係る体制

プロジェクトリーダ(1),

営業窓口(2),技術サポート(2)

チーム

分掌

研究(2)

pSeries690/681 (Regatta)

AlphaSS264/700F

ネットワークサーバ(3)

サーバ(Web, Mail, DNS, NEWS, APOP)

共同入出力室(2)

移動端末(300台),115(30台),162(36台), 163(56台), 330(30台)

ネットワーク

管理(5)

ファイアウォール,侵入検知,無線LAN,キャッシュ,DHCP

課金統計(3)

課金,帳票管理

利用者管理(3)

利用者データベースおよび管理プログラム

平成144月には新学期を迎え,ユーザへの対応に追われることになった.日常のシステム運用体制を表5に示す.すべて運用委託である.関係各位の努力により,概ねスムーズな運用がおこなわれている.特に,文系利用者にとっては支援相談が好評である.貸出し端末については,現在のところ,返納遅れに対するペナルティをどの程度にするか等の問題について試行錯誤している段階である.

表5 システム運用体制と分掌

運用統括責任者 (1),技術支援SE (非常駐)

チーム

分掌

情報処理用WS教室(1)

COMPAQ WS(45台)の管理運営

教育用PC教室(2)

移動端末(300台)

115(30台),162(36台)

163(56台),330(30台)

システム運用管理(2)

サーバ類,ネットワーク管理

利用者支援相談担当(1)

利用登録,電話相談等々

移動端末の貸出(2)

授業用100台,自習用200台

一部AV施設業務委託業者が分掌

表6 情報処理システム倫理規

別表(第8条関係)

利用権を取得した後はすべての利用行為について責任を負わなければならない。
虚偽又は規定等に定められた以外の利用権を申請してはならない。
他の利用者と利用権を共有してはならない。ただし、正当な理由をもってグループの利用申請をしようとする場合には、その旨管理委員会に許諾を得なければならない。
事前の同意なしに、他の利用者が保有するファイル又はデータを削除し、複製し、改変してはならない。
各システムのリソース(計算時間、ハードディスク使用量、通信時間等)を、大量に消費し続けることにより、他の利用者の利用を妨害してはならない。
各システム又はサービスを営利目的に使用してはならない。
各システムを損壊し、混乱させ、性能を変更し、故障の原因となるような行為をしてはならない。
第三者の著作物であるファイルやデータの引用・参照をするときは、著作権法の規定及び公正な慣行に従わなければならない。
発信した電子メールは、その発信者がすべての責任を負う。
電子メールを偽造し、又は偽造しようと試みてはならない。
十一
他の利用者の電子メールを許可なく読み、削除、複製、変造又は公開してはならない。
十二
ウェッブページ(リンクを含む。)、掲示板、電子メール等により、嫌がらせや公序良俗に反する内容、脅迫的な内容、誤解を生じさせることを意図した内容、人権侵害的な内容、名誉毀損的な内容の情報を発信してはならない。
十三
リモートシステムへの権限外のアクセスを試みるために各システムを利用してはならない。
十四
他人のパスワードの解読を試みてはならない。
十五
第三者のソフトウェアなどの著作物を、許可なく破壊、改変、複製してはならない。
十六
ネットワークを含む各システムを破壊若しくは改変してはならない。
十七
正規の手続きによらずに、許可された以外の利用権を入手しようと試みてはならない。
十八
コンピュータ・ウィルス等、各システムの混乱の原因となる有害プログラム又はデータを、各システム内に持ち込んではならない。
十九
機密ファイルに、アクセスしてはならない。アクセス後に当該ファイルが機密ファイルであることを認識した場合には、直ちにアクセスを中止しなければならない。
二十
その他法令に違反し、又は違反する恐れのある行為をしてはならない。

 

最近,システム運営上苦労している点の一つとして,学生の利用モラルがあげられる.本学では,平成144月に,情報処理システム倫理規程を定めた.そのうちの禁止事項(別表第8条関連)を表6に示す.ほとんどの項目は過去に経験したトラブルがその基となっている.また,学生に対する倫理教育にも努めている.

5. 公立大学協会情報処理部会の概要

 公立大学協会の情報処理部会では各大学のコンピュータおよびネットワークシステムの構築や運用に関して情報交換をおこなっている.この会議は年1回開催されている.平成13年度は県立長崎シーボルト大学が幹事校となり,平成13年10月17日,同大学で会議がおこなわれた.会議の概要を表7に示す.平成14年度の幹事校は岩手県立大学である.

表7 平成13年度公立大学協会

情報処理部会の概要

日時

平成13年10月17日

場所

県立長崎シーボルト大学

参加者

加入校    28大学50名

オブザーバ校  4大学 6名

主催校     1大学 9名

主な議題

対外接続速度・料金

学生のシステム利用環境

学生用パスワードの初期設定

情報倫理教育 等々

6.まとめと今後の課題

 本学では平成14年1月に,システムを更新した.これに伴う諸作業について報告した.また,学内システムの運用管理の体制について説明した.最後に今後の課題について述べる.

(1) OS

 ワークステーションのOSとして,全学システムではAIXとTru64UNIXが混在している.一方で研究室はSolarisが多い.各種CADはSolarisまたはWindowsで提供されることが多い.また学内システムのPCのほとんどはWindowsであるが,一部にMacintoshもある.

(2) 継続的運用

 大学の委員は2年で交替し,職員は定期的に異動する.このため,大学にスキルが蓄積せず,中長期的なシステムの計画と維持管理ができていない.

謝辞 東京都立大学情報処理システム運営室委員,電算係職員,事務情報係職員,運用委託会社の皆様に,心から感謝します.

参考URL

http://www.metro-u.ac.jp/

http://www.comp.metro-u.ac.jp

http://www-6.ibm.com/jp/servers/eserver/ pseries/hardware/h_enterp.html

http://www.compaq.co.jp/index_2.html

http://welcome.hp.com/country/jp/jpn/welcome2.htm


都立大学システム全体構成図